「銀行を辞めて司法書士を目指したい」

と銀行近所の居酒屋さんで初めて打ち明けた時、私は正直引き止められるかと思っていました。
なぜなら、人事部にいた先輩に聞いたところによると、部下の退職は上司の査定に影響がでると聞いていたからです。

Ｍさんには本当にお世話になりましたので、そのようなご迷惑をかけたくはなかったのですが、一大決心して相談してみたんです。

「明田が決めたんだったらそれはいい話やないか！」

とても嬉しくて、それ以降その居酒屋で何を話したのかあまり覚えていません。
退職後も年賀状等でお元気そうな様子を拝見していたので、私もそれを励みにしていました。

Ｍさんにはすぐにでもご自宅に伺い独立した報告をしたかったのですが、何かと忙しかったことを理由に先延ばしにしていたところに、Ｍさんの訃報が飛び込んできました。
Mさんのご自宅に向かうにあたり川西能勢口駅から能勢電鉄に乗り、妙見口方面に向かう電車の中でずっと考えていました。

「なんで、すぐにあいさつに行かへんかったんやろう・・・」。
ご自宅のある駅から坂道をゆっくり上がりながら、Ｍさんとかつて居酒屋で退職の相談をした時のことを想っていました。

ご自宅に着くと、奥さまが出迎えてくださり、仏間まで案内していただきました。
お部屋には、ご友人等からのお花がたくさんお供えしてあり生前の親交の深さが伝わります。
仏前に座らせていただくと「にっこり」と笑っているＭさんの写真と共に、お線香台に見慣れた黒縁のメガネ、免許証がお供えしてありました。

「明田さんが独立される話は主人から聞いていましたよ。とても嬉しそうでした・・・。」

私は、お供えされた免許証そしてメガネを見つめながら涙が止まりませんでした。
「なんで、すぐにあいさつに・・」呪文のように頭の中で繰り返し叫んでいました。

「これからも頑張ってくださいね。」

最後に玄関口で奥様からいただいた言葉、そして「自分の信じた道を行けばいい」銀行勤務時代からＭさんよりかけられていた言葉と共に豊能町を後にしました。
そんな思いが詰まった豊能町・能勢町とのご縁を大切にしながら、抵当権抹消手続きを中心に司法書士業務を通じてご恩返しが出来たらと願っています。